近年、歯科への意識向上と共に知られるようになってきた舌磨き。
口臭対策に有効なセルフケアとして知られており、専用グッズも販売されています。しかし、舌磨きの是非は業界でも意見が分かれるところ。
今回は舌磨きに期待されている効果と今すぐやめてと言われる理由について解説します。
舌磨きの必要性は賛否両論
口腔内の汚れといえば歯の状態をイメージする方も多いですが、実際は舌表面にも汚れは蓄積していきます。菌の塊や剥がれ落ちた粘膜、食べ物のカスなどが舌表面に蓄積し、舌苔と呼ばれる白い汚れを形成します。この舌苔が口臭を発生させています。
通常の歯磨きだけでは除去が難しいですが、正しい舌磨きを実践すれば、舌苔を取り除き口臭を軽減できます。そのため、口臭が気になっている方にとって、舌磨きは有効なセルフケアといえます。
とはいえ、舌苔そのものに危険性・有害性がある訳ではありません。唾液の発生や会話による舌の動きでも自然と除去されるため、舌磨きの必要性はそこまで高くないです。むしろ、少しでも口臭を軽減しようと必要以上に舌磨きをすることで、舌そのものを傷つけるリスクがあります。これが舌磨きの必要性に賛否が分かれる理由です。
舌磨きに期待されている効果
- 口臭の原因となる舌苔を除去できる
- 味覚の改善
- 舌表面の細菌を清掃できる
舌磨きには、口臭軽減以外にも味覚改善や感染症対策などのメリットがあるといわれています。
舌表面には味蕾と呼ばれる味を認識する器官が備わっています。舌苔の過剰な蓄積は、この味蕾の働きを阻害してしまう可能性があります。味蕾の働きが悪くなり、味を認識しにくくなると満腹感が得られにくくなる他、濃い味付けを好むようになります。そのため、舌磨きで適度に舌苔を取り除くことには味覚改善が期待できます。
また、一部の専門家たちからは、適切な舌磨きを行うことで舌表面に付着している細菌やウイルスが取り除かれ、感染症・誤嚥性肺炎の予防対策に繋がる可能性があるとしています。
舌磨きのリスク
- 乳頭を損傷させ逆に口臭が悪化する恐れがある。
- 味蕾を傷つけ味を認識しにくくなる可能性もある。
舌磨きには、口臭軽減などのメリットがある一方、デメリットも存在します。特に注意したいのが、誤った舌磨きの実施によって、舌表面にある舌乳頭や味蕾を傷つけてしまうこと。舌乳頭の傷は唾液量を減らし口腔内の自浄作用の低下を、味蕾の損傷は味覚障害をそれぞれ引き起こします。
こんな舌磨きは今すぐやめて
舌磨きと言っても、ただ単にブラシで舌を磨けばいいという訳ではありません。ポイントを押さえていないと、大事な舌を傷つけ、余計に口臭が悪化してしまう恐れがあります。
具体的にどのような行動がNGなのかを詳しく紹介します。
力強く磨く
口臭を気にされている方は、少しでも舌苔を取り除こうと躍起になりがち。しかし、力強く舌を磨くことは絶対に避けたいNG例です。
舌は私たちが思っている以上にデリケートな器官。必要以上に力を込めて磨いてしまうと、簡単に表面の舌乳頭や味蕾を傷つけてしまいます。
舌苔は専用ブラシで軽く2~3回擦るだけで十分落とせます。すべての舌苔を無理に落とす必要もないため、軽めの力で磨きましょう。
歯ブラシで磨く
舌磨きを行う際、通常の歯ブラシで舌をゴシゴシと磨くのもNG。通常の歯ブラシは歯についた汚れや食べカスを擦り落とすために毛先が硬めに設されています。そのため、歯ブラシで舌を磨くと摩擦が強くなりやすく簡単に舌を傷つけてしまいます。
舌磨きを行う場合は、必ず専用の舌ブラシを選択しましょう。舌ブラシは歯科医院の他に薬局などでも販売されているので、気になる方は探してみてください。
定期的に舌ブラシを交換しない
優しく磨く・専用の舌ブラシを使用している場合でも、長期間、舌ブラシを交換していなかったらアウトです。舌の上には舌苔以外に細菌なども付着しています。当然、舌を磨くブラシにも付着します。そのブラシを1ヶ月以上使い続けていると、ブラシそのものが汚染されてしまい、せっかく舌を磨いても逆効果になりがち。
舌磨きの正しい方法
舌磨きは正しく行わなければ、リスクを伴うケースが多いです。逆にいえば適切な方法・回数を遵守すれば口臭の原因である舌苔を適度に除去し、味覚状態も改善できます。口腔ケアの一環として、正しく舌を磨くことには十分価値があります。
では、具体的にどのような方法が正しい舌磨きなのか?
まずは舌磨き専用ブラシを購入しましょう。舌ブラシには大きく分けて3種類が存在します。
- ブラシタイプ
:歯ブラシのように毛が埋められている。舌苔除去率が高い。 - ヘラタイプ
:舌苔除去率こそ低いが舌そのものを傷つけにくい。 - U字タイプ
:舌を広範囲にお手入れできるが扱いにくい。
この中で初心者におすすめなのは、ヘラタイプです。舌苔の除去率こそ低いですが、舌そのものを傷つけにくい特性を有しています。そもそもの話、舌苔は必ずすべて除去しなければいけない訳でもないため、口臭予防という目的であればヘラタイプでも十分といえます。ただし、傷つけにくいというだけなので、ヘラタイプでもゴシゴシ磨くのは厳禁です。
舌磨きは、鏡で舌の状態を確認しながら行いましょう。ここでのポイントは白い舌苔が付着していないピンク色の個所はあまり擦らないということ。舌苔が付着していない分、傷付きやすくなっています。
舌ブラシは奥から手前に向かって動かしましょう。逆向きに行うと、せっかく取り除いた細菌がのどに落ちてしまいます。また、舌ブラシは奥から手前に動かしたら一度離しましょう。往復させることでも、舌苔のカスをのどに送ってしまう恐れがあります。磨くとき優しめの力加減も意識してくださいね。
舌磨きは2~3回磨けばOKです。何度も擦ると舌そのものを傷つけてしまうため、回数は少なめを意識しましょう。舌苔は無理にすべて取り除く必要がないため、躍起にならないようお気を付けください。
口臭対策は舌磨き以外にもある
舌磨きはたしかに口臭に対する有効なアプローチですが、あくまでも対策のひとつに過ぎません。口臭の状態を軽減させる方法は、舌磨き以外にも存在します。
- 唾液分泌量を増やす。
- 歯科での定期健診(歯周病対策)
- お酒やタバコなどを控える
特に意識されることをオススメするのが、唾液の分泌量です。唾液には口腔内の自浄作用が含まれており、舌苔もある程度洗い流してくれます。唾液の分泌量は規則正しい生活や舌下腺などをマッサージすることで改善されます。
また、歯医者での定期的な検診も口臭対策として有効です。口臭の原因は必ずしも舌苔であるとは限りません。歯周病などの疾患によっても口臭は発生します。
舌磨きは正しい方法を意識しよう
舌磨きには、たしかに口臭対策・味覚改善などのメリットがあります。一方で誤った方法で実践すると、舌を傷つけて逆に口臭・味覚が悪化する恐れもあります。舌はデリケートな器官。簡単に傷ついてしまうため、歯科関係者の中には、あまり舌磨きを推奨しない方もいらっしゃいます。
舌磨きに取り組むときは、今回紹介したポイントを押さえて舌に優しい磨き方を心掛けてください。